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聞こえ方には個人差がある
私達が感じている「現実」とは、「五感」と呼ばれる五つの感覚器官から送られてきた情報を「脳が再構成して作りだしたイメージ」です。「視覚」は様々な錯覚を起こすことが知られていますが、それは「脳の思い込み」が原因です。
私達は「夢」の中でも音を聞き、映像を感じますが、それこそが「脳が音や映像(現実)」を作り出しているという証拠なのです。私達が目覚めているときに聞いている「音」は、耳に届いた物理的な空気の振動から、リアルタイムで脳が作りだした「音というイメージ」を「音」として感じています。
「脳」のコンディションは一定ではありません。感情や体調の変化によって、まったく同一の音が違って聞こえることがあるでしょう。個人の経験や、聴き方の癖でも、同じ音が人によって違って聞こえるでしょう。けれど人間の聞こえ方に一番大きな影響を与えているのは「思い込み」です。かなり以前のことですが、サブウーファーの調整のためコンソールのつまみを動かして音を変え、やっとの思いで正解にたどり着いたとき、コンソールを見ると「コントローラーが無効」になっているではありませんか。つまり、まったく音が変わっていないにもかかわらず、私は「音が変わっている」と感じていたのです。
この経験をマスタリング・エンジニアに打ち明けたことがあります。彼は「そういうことは良くあることだ」と笑っていました。
「価格」、「一般的な評価」、「メーカーの好き嫌い」などで、音の聞こえ方は容易に変わってしまうので気をつけて下さい。記憶している音が「とても素晴らしい音」に鳴っているのも、聞いた音を無意識に自分の好みで美化しているからからかもしれません。
オーディオ機器の試聴時や、親しいご友人と「音談義」に花を咲かせるときには、この点をくれぐれも覚えて置いて下さい。「あなたが聞いている音」と「友人が聞いている音」は同じではないのです。それを知らずに「同じ音波は誰にでも同じに聞こえているはず」と誤解すると、聞こえる、聞こえないの押し問答が、いつしか争いになってしまうかもしれません。
私達は「脳が作った音」を聞いている。それを忘れないでください。
最新のスーパーコンピューターの処理速度は驚くほど早く、人間はそれに太刀打ちできません。では、機械に劣る人間は、どのようにして機械を上回る感覚を身につけているのでしょう?
私達が「音」を聞いているとき、「脳」には音以外の信号も届いています。視覚、嗅覚、味覚、触覚などの聴覚以外の感覚も総動員して、脳は「音」を作り出しています。しかし、私達の五感から送られてくる情報は莫大すぎて、瞬時に処理するためには脳の生体反応のスピードが追いつきません。脳はその中から必要な情報だけを、実に巧妙に取り出して利用しているのです。
私達の脳は、生存競争に勝ち残るため、「感覚器官からの情報」の中から、「自分が生き延びるために必要な部分」を最短かつ最優先に取り出せるように進化しています。実際に「私達が生存」するために欠かせない情報である、家族や、親しい友達、大好きな異性の声は、他の音よりも遙かに優先的に聞こえることが科学的に検証されています。
もちろん、それ以外の「食糧の確保」・「自己防衛」・「繁殖」など、やはり生存に最優先な「情報」を即座に取り出せるように、私達の「耳」は実に巧みに、そして抜群の精度と速度で「必要な音」を選び出しているのです。「耳の感度」は、レンズのズームやフォーカスを合わすように、常に調整されています。そして、その「対象」は、その「耳」が置かれている、「その時の環境=物理的要因」や「それまでの経験など=心理的要因」により、大きく左右されているのです。これらの、様々な事柄より、「私達に聞こえる音=私達の耳」には、大きな個人差(個体差)が生じます。
同じ異性でも「その時に興味がある異性の声が優先的に聞こえる」という経験は、思春期を経た大人ならだいたい誰でも思い当たるはずです。つまり、聞き手が同一人物であってもその時に何を求めているかで、聞こえる音が変わってしまうのです。極端な話、空腹時と満腹時でも音の聞こえ方は変わってしまうかも知れませんし、センチメンタルな気分の時と、快活な気分の時では、聞こえる音は変わってしまうでしょう。
音波が鼓膜に届いてから「必要な情報=必要な音」を選ぶ段階で、どのような取捨選択がなされるかにより聞こえる音は、変わります。物理的あるいは心因的な要因によって、私達に「聞き取れる音=聞こえる音」は、刻一刻と変化しているということを忘れないでください。
このように「耳」は、実に自己中心的で曖昧な聞き方をしていますが、同時に「耳」は脳がその「情報」を絞りこむ(フォーカスする)ことで、測定器が捉えられない些細な音の変化を関知することもできるのです。