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本物の感動とは

無理に感動する必要はない

音楽を聞き分ける力、音を聞いて感動する能力は、生まれながらに誰にでも備わっていたのですから、初めてコンサートを聴く時に感動できるかどうか?音楽がわかるかどうか?などと緊張する必要はまったくありません。演奏者が雑誌に評価されているとか、公演料が高いからとか、周りの人が盛大に拍手しているから、自分が感動できなければおかしいとなどと不安に感じる必要もまったくありません。
先入観を捨て肩の力を抜き、堂々と胸を張って「自分の感性」で楽しんで下さい。良い演奏は心地よく時の過ぎるのを忘れさせ、そうでない演奏は退屈だったり、つまらなかったりするだけなのです。

オーディオ機器の評価もまったく同じで、ブランドや価格が高いからといって「音が良いに違いない」と思いこんだりしないで下さい。高額な製品であっても、聞いていると何か物足りないと感じたり、逆に惚れ込むほど音が良く聞こえたり、声がやけに生々しかったり、特定の楽器の音など、「演奏ではなく音がハッキリと耳に残る」装置は、どこかおかしいと考えてまず間違いありません。

本当によい音は、バランスの良い自然な音

音楽を料理に例えて説明しましょう。
本当に良い料理法は、素材そのものの良さを引き出してくれるので、素材を変えればいつも新鮮な驚き=うまさを感じることができます。つまり、「素材そのものの旨みを変えずに引き出してくれる」のが良い料理なのです。しかし、味付けの個性が強すぎると、素材とは無関係に味付けの強さばかりが舌に残り、始めは新鮮に感じていたはずの料理でも、いずれは飽きてしまうでしょう。そういう料理法は、素材の良さを引き出していたのではなく、味付けの個性を押し付けていただけなのです。大切なのは「突出すること」ではなく、「バランス良く突出しないこと」なのです。

オーディオ機器の味付けの善し悪しも料理とまったく同じで、何かの音が突出していると「その個性ばかりが耳について」その背後にある表現が聴きとれなくなります。特定の楽器の音や表現、例えばシンバルの音の激しさや、ヴォーカルの舌なめずりが聞こえるような生々しさに強くこだわっていると、肝心の音楽の良さを聞き逃してしまうので、注意して下さい。
音楽の良さ(美味しさ)も、料理の良さも、「様々な刺激の絶妙な調和」にあります。調和が取れることで、主旋律がきちんと副旋律と分離しながら融合し、美しいハーモニーを形づくります。ひとつひとつの楽器の音が混じり合って、美しいハーモニーが形成されるように聞こえ始めたら、あなたが普段気に留めてもいなかった演奏が、絶妙の味わいを持つ素晴らしい演奏に感じられたなら、そのシステムはきっと飛び抜けた性能を持っているはずです。

装置の存在感が消えてしまう。そういうオーディオの音は、深みがあって飽きません。しかし、このような素晴らしい資質を持った装置でも、ソフトに録音されている元々の演奏が、バランス感覚にかける稚拙な演奏や録音だと、せっかくの高度なステレオの音質を判断することができません。なぜなら、そういう「癖=個性」の強い録音では、装置に癖がなくても、癖のある音に聞こえてしまうからです。
そのため、装置の聞き比べには音楽を演奏する前に、川や海の自然の環境音を加工せずに録音したソフトをまずお聞き下さい。

(「せせらぎ」が録音された、お薦めソフトはこちらからお求め頂けます)

そういう自然の音なら、個人的な好き嫌いや、装置の個性に左右されず本質的な音質の品位(クォリティー)を確認する助けとなるはずです。良い装置で聞く自然の音は、深みと実在感があり、癖のある装置で聞く自然の音は、どこか不自然に人工的に感じられるでしょう。
イベントや店頭で「音」が耳について離れなくなったときは、あわてて飛びつかずに十分に注意して下さい。間違いなく、何かの個性が強すぎるのです。でも、「音」は耳に残っていないのに、その装置を聞き終わってから、もっと音楽を聴きたくなったら、それは素晴らしい装置です。あなたが装置を買い替えた時、真っ先に家族の誰か、「良い音になったね」といってくれたら、その買い物は大正解です。しかし、家族の誰もが音の変化に気づかなかったり、長く聞いていると聞き疲れたり、最初の感動がどんどん薄れるようなら、その選択は間違いだったのかも知れません。

料理と音楽の類似性

私が音楽を聴くときには、まず何よりも「音の美しさ」を求めています。「鳴り(響き)の美しさ」と表現すればよいのでしょうか?とにかく、美しく深みのある音が好きです。音が美しい演奏であればあるほど、奏でられる音の美しさに陶酔すればするほど、演奏が終わったときの記憶は曖昧で、何か美しいものに触れたような心地よい感覚だけが残り、メロディーやリズム曲調などはほとんど記憶に残らないのです。極端にいうなら、楽器を美しく響かせることが、リズムや曲調の目的であるとさえ思える時があるくらいです。音楽を聴いたり薦めたりすることを職業としているのに、本当にこんないい加減な聴き方でよいのだろうかと悩んだあげく、友人の指揮者に教えを請いました。

彼は、音楽を料理に例えて説明してくれました。
「美味しいものを食べたときは、フランス料理であれ中華料理であれ、和食であれ、上手いもの食べたという満足感だけが残るだけで、たぶんそれがどんな料理であったかどうかはあまり重要じゃないはずだ。音楽も良い演奏を聴いた、美しい音に触れたという満足感が重要なのであって、作曲家が誰であるとか、演奏者による曲調がどのように評価できるかなどということは、聴く側にとっては大きな問題じゃない。だから、モーツァルトやベートーベン、シューベルトなどの作曲家による音楽の違いは、上手いものを作るための料理方法の違いだととらえてくれればそれで良いと思う。ただし、料理を作る側にとっては、あらゆる食材の状況(楽器や演奏者の資質とコンサートホールの音響)に対応して、即座に上手い料理を作りだすため、様々な料理方法を熟知することはもちろん大切だけれどね。」と笑いながら話してくれたのです。

私にはとてもわかりやすい説明でした。彼は続けて、
「演奏を聴衆に合わせてわかりやすく味付けし、その場限りのブラボーを受けるのは難しくない。しかし、そんなでは、演奏は深みが無く芸術の本質に迫ることはできないはずだ。これも料理に似ていて、ひとつの素材の味だけを強調すれば、わかりやすい味にはなってもいずれ食べ飽きてしまうだろう。本当に上手い料理が、食材のひとつひとつの味を感じることが出来ないほどあらゆるうま味が複雑に混じり合いながら調和しているから深みがあり素晴らしいのであって、音楽も本当によい演奏は、個々の楽器の響きが複雑に折り重なりながら美しいハーモニーを形成し、それが時間の流れと調和して形を変えながら流れてゆくようなものだ。深みがあるということは、時間あたりの情報がとても多いと言うことだから、それを分析しながら聴くことなどできるはずがない。指揮者も、演奏者も、そして聴衆も、ただため息がでるほど美しい時間を共有したという記憶が残るだけだよ。」
と話してくれたのです。

バリエーションから学べること

料理がその調理法で区別されるように、音楽も「ジャンル」で区別されています。しかし、「ロック」が「暴力的なものや過激なものに限定されている」ことはありませんし、逆に、「クラシック」が「高尚なもの」だけを表現しているわけではありません。
もちろん、愛を語るなら「フランス語」といわれるように、音楽もジャンルの違いで伝えやすいニュアンスは違いますが、数多くのジャンルの音楽を聴き、実際にそれらの演奏に触れることで、音楽全体への理解がより深まると共に、自分自身の嗜好が再確認できるでしょう。

また、「特定の演奏者の特定のソフトだけ」をいろんな種類の装置で聞き比べ、音が良くなった時に「演奏者の新たな魅力を引き出せた」と思いこむのは危険です。もしかすると、「そのソフトによって装置の個性が引き出され」たまたま、いい演奏に聴こえただけなのかも知れないからです。
これも料理に例えると話がわかりやすいでしょう。ソフトの特定の部分を聞き比べるのは、ひとつの食材を調理方法を変えて楽しむのと同じで、それによってわかるのは、食材そのものの個性ではなく、調理方法の個性、つまり「装置の個性」なのです。
逆に、装置を固定して、その演奏者の複数のソフトやもっと様々なソフトを聞き比べれば、装置の音にすこしくらい癖があっても、「演奏者の個性」は自ずと感じ取れてくるはずです。実は、音楽を聴くとはそういうことなのです。

そして、それはオーディオ機器の選択にもまったく同じことがあてはまります。音楽をよりよく知るために「自分の装置の個性」を知ろうとすれば、雑誌やメーカー、あるいは同一ブランドを信奉するように、買い求めたり固執したりせず、先入観を捨てて多くの製品の音を聞くことで、より自分の装置に対する見識が深まり、自分の選択や好みに自信を持つことができるはずなのです。

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