重量感のある豊かな響き、木管や金管も明晰に聴こえる名録音。
ESOTERICならではのこだわりのSuper Audio CDハイブリッド・ソフト
マスターサウンドへの飽くことなきこだわりと、Super Audio CDハイブリッド化による圧倒的な音質向上で継続して高い評価をいただいているESOTERICによる名盤復刻シリーズ。 発売以来LP時代を通じて決定的名盤と評価され、CD時代になった現代にいたるまで、カタログから消えたことのない名盤を貴重なマスターから進化したテクノロジーと感性とによってDSDマスタリングし、 新たなSuper Audio CDハイブリッド化を実現してきました。今回はDECCA、旧フィリップス、旧EMIの名盤から、アナログ時代およびデジタル初期を代表する名演・名録音4タイトルをSuper Audio CDで発売いたします。
ブルックナーの伝道者オイゲン・ヨッフム
ドイツの名匠オイゲン・ヨッフム(1902〜1987)は、アナログLP時代にブルックナーの交響曲全集を2度録音した唯一の指揮者でした。オーケストラ作品のみならず、オペラや声楽曲を含むバッハからオルフまでのドイツ・オーストリア音楽を中心に幅広いレパートリーを持っていたヨッフムですが、その名はやはりブルックナーと密接に結びついており、1949年には国際ブルックナー協会ドイツ支部会長に就任し、 1954年にはミュンヘンでのブルックナー国際音楽祭に際してメダルを受賞。同じ年には当時未出版だった交響曲第8番第1稿の初演(第1楽章)を担っています。生き生きと躍動し、暖 かな人間味に溢れ、柔軟なテンポの伸縮、ダイナミックスやオーケストレーションの変更など、独自の呼吸感を持ったヨッフムのブルックナー解釈は、結果として、多くの人にとってブルックナーの音楽をより身近に感じさせる意味合いを持っていました。録音面でも、すでに1930年代後半のSP時代に第4番・第5番・第7番の大曲3曲の録音を実現させており、ステレオ時代には上述の2種類の交響曲全集(第1回=1958〜67年にベルリン・フィルおよびバイエルン放送響、第2回=1975〜80年にシュターツカペレ・ドレスデン)を完成させたほか 、ミサ曲 3 曲を含む主要声楽曲集をも録音しており、20世紀を代表するブルックナーの権威としての足跡を録音という形でも残しています。これらの録音が世界各地に普及していくことで、ヨッフムとブルックナーの名はますます不可分になっていったのです。
オットーボイレン修道院での交響曲第5番
ヨッフムはSP時代の初期録音やステレオの2種類の交響曲全集のほかにも単独でいくつかの曲の録音を残していますが、それらの中で最も有名なのが今回当シリーズで復刻される交響曲第5番でしょう。これは、1964年5月30日と31日、ミュンヘ ンの南西100キロに位置する、バイエルン州シュヴァーベン地方の小さな町オットーボイレンにある聖ベネディクト修道院の大聖堂で、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団と行った演奏会のライヴ収録で、同修道院の開院1200年を記念しての重要なイベントでもあり、フィリップスによって収録されました。同修道院では1949年以来毎年初夏に宗教曲・声楽曲による演奏会からなるコンサート・シリーズを開催しており、同じシュヴァーベン地方のバーベンハウゼンの出身だったヨッフムはこのシリーズの常連でした。しかも宗教曲だけでなく交響曲も含むブルックナーの作品を数多く取り上げることで、このシリーズにブルックナーの交響曲演奏を根付かせるという貢献もしています 。
第4楽章にクライマックスを置くヨッフムの解釈
そのオットーボイレン修道院のような、壮麗な教会の伽藍を思わせるような堅固な構成が際立った交響曲第5番は、ヨッフムが最も愛奏したブルックナーの交響曲の一つでもありました。1929年10月にリューベックで同地の市立管弦楽団と演奏して以来頻繁に取り上げ、1962年にはコンセルトヘボウ管の日本ツアーで演奏して日本初演を果たしていますし、1969年には フランス国立菅とパリ初演も実現させているほか、亡くなる4か月前、生涯最後のブルックナー演奏となった1986年12月のアムステルダムにおけるコンセルトヘボウ管との演奏会もこの曲でした。ヨッフムは第5番の音楽的な頂点を第4楽章に置いており、最初の3つの楽章で力を使い尽くさず、「最後の終結のために余力を貯えておかねばならない」と考えていました。その点も鑑みて、第4楽章の583小節以降の金管のコラール( [4]21分11秒以降)で金管パートを増員して最後のクライマックスの音響的な輝きを確保したのでした。この部分で聴か れる異例なほど強靭なサウンドは長大な作品の終結部に相応しいと言えましょう 。
コンセルトヘボウ管弦楽団との充実を刻んだライヴ
ヨッフムは、生涯にわたってオランダの名門ロイヤル・コンセルトヘボウ管とも強い絆を保持していました。すでにメンゲルベルク時代の1941年11月にデビューし、戦後の困難な時代を導いたエドゥアルド・ヴァン・ベイヌムの急逝を受けて、1961年からはベルナルト・ハイティンクとともに常任指揮者に就任しています。当アルバムのブルックナー第5番はこの時期に収録されており、隅々まで指揮者の意図が浸透 した絶好調の演奏は両者の良好な関係を物語るものでしょう。ヨッフムは同じ年にコンセルトヘボウ常任指揮者の職を辞しますが、それ以降もオーケストラとの密接な関係は続き、1960年代にはバッハのマタイとヨハネ受難曲、ベートーヴェンの交響曲全集やミサ・ソレムニスなどの重要作の録音を実現させており、いわばコンセルトヘボウ管の伝統を継承する老賢者とでもいえる立場でオーケストラを関わり続けたのでした 。
大聖堂の雰囲気と明晰さを両立させた奇跡の録音
この録音は、残響の多い石造りの巨大な大聖堂での録音にもかかわらず、オーケストラの各パートが極めて明晰に収録されているのが特徴で、会場の残響成分も過度にならない範囲でミックスされているため、雰囲気豊かな響きの中でも演奏の細かなニュアンスが犠牲になることはありません。演奏会当日の写真を見ると、指揮者の背面に高いマイ クスタンドが立てられ、それと並行して左右に2本マイクスタンドが立てられていること、またオーケストラの上からもワイヤーに吊るされたマイクが数多く下げられていることが見て取れ、ライヴ録音であるにもかかわらず、セッションに匹敵するような精密なマイク設定が行われていることがわかります(TV放送のための映像収録も行われました)。ヨッフムの演奏自体も、テンポの設定やオーケストラのバランスづくりは通常の会場での演奏と同じ姿勢で臨んでいるため、「残響が多いからテンポを遅くする」というセオリーはこの録音ではあてはまりません。演奏後の拍手はないものの、聴衆や演奏ノイズも適度に含まれており、ライヴならではの雰囲気や緊張感と再生音としての充実度が両立した名録音といえましょう。それゆえ、フィリップスが1989年に「レジェンダリー・クラシックス」という過去の名演再発シリーズで初めてCD化したのは当然のことで、それ以来、24ビット/96kHz リマスター(2001年)、Super Audio CDハイブリッド(2004年)、そして2018年には再度Super Audio CDハイブリッド盤として発売されているほどの人気盤です。今回、通算3度目となるSuper Audio CDハイブリッド化に当たっては、 これまで同様、使用するマスターの選定から、最終的なDSDマスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業をおこないました。特にDSDマスタリングにあたっては、新たに構築した「Esoteric Mastering」を使用。 入念に調整されたESOTERICの最高級機材Master Sound Discrete DACとMaster Sound Discrete Clockを投入。またMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、オリジナル・マスターの持つ情報を伸びやかなサウンドでディスク化することができました。
■『ブルックナー・ファンにとっては大吟醸的な名盤』
「ヨッフムの演奏が、生気を放って、オーケストラを、一部の狂いも隙もなく、自己のペースに乗せ、ブルックナーの世界を見事に描き出している。ヨッフムの指揮者としての容量の大きさと、コンセルトヘボウの卓越した表現力とに、あらためて驚きもしたのである。これは 、忘れ難いレコードである。」(『レコード芸術』1964年12月号、推薦盤)
「ヨッフムの真髄はブルックナーの演奏にある、というのが定説だが、第5番をとってもそのことは明らかだ。楽譜を極めて忠実かつ精緻に読み、フレージングと曲想記号を明確に正確に尊守し、ブルクナーの複雑きわまりない音楽構造を解き明かして、 聴き手 の眼前にくりひろげるのである。そしてその裡には、ブルックナーへの信仰にも似た熱い共感が漲っており、その視線はさらに神へと向かっているかのようだ。」(『クラシック・レコードブック VOL.1 交響曲編』1985年)
「大聖堂でのこのライヴは、音楽が内的な力に満ちて確固たる有機体をつくり、一つの完成されたブルックナー世界を見事に作り出している。強固ながらも威圧的にならない開放的な造形と音の広がり。「オルガン的な響き」のブルックナーはここに極まった感がある。」(『クラシック不滅の名盤 800』1997年)
「ブルックナー・ファンにとっては大吟醸的な名盤といえるのではなかろうか。豪壮重厚に鳴り響く金管、木管の機微の豊かさ、そして弦の豊饒さなど、同作品の ソノリティの醍醐味を存分に味わうことができる。 それにもまして解釈は緻密。豪から柔、緻密なテンポの変化など、ブルックナー音楽の生理を熟知した解釈が隅々にまで行き渡っている。ブルックナー研究者としても有名だったヨッフムの集大成的な要素が濃密に表れた演奏ともいえる。 録音から半世紀近い時間が経っているにもかかわらず、時間とともに彼の演奏が得難いバイブル的な演奏であることを身に染みて実感。」(『クラシック不滅の名盤 1000』2007年)
[収録曲]
アントン・ブルックナー Anton Bruckner
交響曲第5番 変ロ長調
Symphony No. 5 in B flat major
[1] |
第1楽章:Introduction(Adagio - Allegro) |
[2] |
第2楽章:Sehr langsam (Adagio) |
[3] |
第3楽章:Scherzo (Schnell) - Trio (Im gleichen Tempo) |
[4] |
第4楽章:Finale(Adagio - Allegro moderato) |
詳細
録音 |
1964年5月30日〜31日
ドイツ・ オットーボイレン
聖ベネディクト修道院大聖堂でのライヴ・レコーディング |
初出 |
Philips:835 225/26 AY(1964年) |
日本盤初出 |
フィリップス:SFL7801〜2(1964年11月) |
オリジナル・
レコーディング |
[レコーディング・プロデューサー]J. ヴァン・ヒネケン
[バランス・エンジニア]ヘンク・ヤンセン
[レコーディング・エンジニア]セース・フイジンガ |
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