ミュンシュ最晩年の圧倒的な名演がエソテリックならではの最新リマスターで復活。
ESOTERICならではのこだわりのSuper Audio CDハイブリッド・ソフト
マスターサウンドへの飽くことなきこだわりと、Super Audio CDハイブリッド化による圧倒的な音質向上で継続して高い評価をいただいているESOTERICによる名盤復刻シリーズ。 発売以来LP時代を通じて決定的名盤と評価され、CD時代になった現代にいたるまで、カタログから消えたことのない名盤を貴重なマスターから進化したテクノロジーと感性とによってDSDマスタリングし、 新たなSuper Audio CDハイブリッド化を実現してきました。今回はDECCA、旧フィリップス、旧EMIの名盤から、アナログ時代およびデジタル初期を代表する名演・名録音4タイトルをSuper Audio CDで発売いたします。
ミュンシュ全録音の中でも最も重要な名盤
フランスの名指揮者、シャルル・ミュンシュ(1891-1968)がその最晩年に持てるエネルギーの全てを注いだのが、パリ管弦楽団の創設と育成でした。 1967年6月、フランス文化相アンドレ・マルローと、文化省で音楽部門を担っていたマルセル・ランドスキのイニシアチブにより、139年の歴史を誇る名門パリ音楽院管弦楽団の発展的解消が行なわれ、新たに国家の威信をかけて創設されたのがパリ管弦楽団で、その初代音楽監督に任命されたのがミュンシュでした。 当時のフランスでは、第2次世界大戦前にパリ音楽院管の常任指揮者を務めていたミュンシュ以上にこの新たなオーケストラを率いるのにふさわしい指揮者はおらず、同年10月2日からの綿密なリハーサルを重ねてむかえた11月14日の第1回演奏会は、国内外に新しいフランスのオーケストラの誕生をアピールする大成功を収めたのでした。 その1年後、1968年11月、パリ管弦楽団の北米ツアーに同行中にリッチモンドで心臓発作のため急逝するまで、ミュンシュは30回ほどの共演を重ねるとともに、EMIにLP4枚分の録音を残しました。 その中の1枚がこのブラームスの交響曲第1番で、2011年に当シリーズでSuper Audio CD ハイブリッド化したベルリオーズ「幻想交響曲」(ESSE-90049)と並び、ミュンシュの全録音の中でも最も重要な名盤として初発売以来カタログから消えたことがありません。
ドラマティックさを極め尽くしたブラームス
ミュンシュがパリ管の定期で指揮したレパートリーは、フランス音楽に拮抗するようにドイツ音楽の割合が高く、それはミュンシュ以来バレンボイム時代辺りまでのパリ管のプログラム・ビルディングの基本的な特徴でもありました。 ミュンシュがブラームスの交響曲第1番を指揮したのは、創立演奏会から数えて4つ目の演目で、1968年1月9日から13日にかけて、パリのサル・プレイエルとシャンゼリゼ劇場のほか、ランヌやサン=ドニなど地方での演奏も含め5回取り上げています。 EMIへの録音は、その合間を縫ってサル・ワグラムで収録されました。とにかくこの交響曲をこれほどドラマティックな起伏をもって効果的に演奏した例はないと言えるほどで、特に第4楽章ではそれが頂点を極めています。 序奏から濃密な表現で入念に音楽が描き出され、ホルンの有名なソロ、その後のコラ ールを経て堂々たる主部へ突入。常にティンパニが轟然と鳴り渡り、特にコーダでは、楽譜にないティンパニの追加も含め、凄絶なクライマックスが築き上げられています。 第1楽章も情熱と音の厚みが半端なく、堂々としてスケールが大きく、オーケストラのサウンドに指揮者の全エネルギーが注ぎ込まれているようです。 主部は遅く始まるものの緩急自在で、念を押すリズムや音が出る直前の間合いなど、むしろ非常にドイツ的な表現といえるでしょう。中間の2つの楽章も同じで、有機的なアンサンブルが音楽のデリケートで物憂い情緒を見事に表出しており、 あらゆる点で、巨匠の叱咤激励のもと覇気に燃える新生オーケストラの息吹が生々しく捉えられています。ミュンシュはこの交響曲を得意とし、ボストン響時代にRCAに録音し、現在では来日時の2種の映像も含め複数のライヴ録音も公刊されていますが、 このパリ管との録音はその中でもドラマティックさを極め尽くしたという点で群を抜いた存在といえるでしょう。
分厚く渦巻く演奏の熱気や巨大なスケール感を収録
収録が行われたサル・ワグラムは、EMIが1950年代からパリにおけるオペラやオーケストラ録音に常時使用していた会場です。1865年に建造され、もともと国際会議、政治集会、展覧会など多目的に使用されてきたホールで、大きな空間の割には残響感が少なく、明晰さよりもあたたかみのある溶け合った響きが特徴。 録音を手掛けたのは、パリ音楽院で作曲を学び1945年から75年にかけて仏パテ・マルコーニ→仏EMIのクラシック音楽制作のディレクターを務めたルネ・シャラン(1910-1978)、エンジニアはやはり同社のハウスエンジニアだったポール・ヴァヴァッスールのコンビ。 ホールに分厚く渦巻く演奏の熱気や巨大なスケール感が左右のスピーカー一杯に捉えられています。フランスのオケらしい個性的なサウンドを持つ木管を明晰に際立たせるのではなく、厚みのある弦楽パートを土台としたオーケストラ全体の大きなマスの響きの中に融合していく音作りがなされていて、 それがミュンシュのドラマティックな演奏解釈の方向性と見事にマッチしています。発売以来カタログから消えたことがない名盤であるため、デジタル初期の1986年からCD化されており、リマスターも重ね、さらにSuper Audio CD シングルレイヤーやMQA-CDでもリリースされています。 今回のSuper Audio CDハイブリッド化に当たっては、これまで同様、使用するマスターの選定から、最終的なDSDマスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業をおこないました。特にDSDマスタリングにあたっては、新たに構築した「Esoteric Mastering」を使用。 入念に調整されたESOTERICの最高級機材Master Sound Discrete DACとMaster Sound Discrete Clockを投入。またMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、オリジナル・マスターの持つ情報を伸びやかなサウンドでディスク化することができました。
■『フルトヴェングラーをも凌駕するような音楽とスケールの広がり〜極限のところに生まれた奇跡』
「ミュンシュのテンポは総じて遅く、劇的表出力が強くてかなり粘り強い表現をしている。特に第1楽章は、堂々と粘着力をもって情熱的に盛り上げていくが、その力の強く逞しいことは驚くばかりだ。オーケストラも彼の意図する曲の燃えるような情熱を余すところなく表現し尽くしている。 総じて、ミュンシュの演奏は、広々と胸を広げて、深くすべてを飲み干そうとする力強い呼吸が感じられるものである。」(『レコード芸術』1968年9月号、推薦盤)
「ミュンシュ最晩年の演奏だが、その気迫に目を見張る圧倒的な名演である。冒頭から遅いテンポを採った雄渾な表現で、スケールが大きい。第1・4楽章では、情熱が解放されて、響きは明るさと重量感を兼ね備えている。 4つの楽章を、造形的にそれぞれの特質を発揮するようにまとめていて、激性と抒情性が美しくバランスがとれている。これほど音楽的に内容の濃いブラームスは、あまり例がない。」(『クラシックCDカタログ』’89前期、推薦盤)
「若き青春の日にフルトヴェングラーのもとでコンサートマスターを務めたというミュンシュが、アメリカナイズされて性急なインテンポ主義に囚われていたボストン時代から脱却して、 祖国での最高の地位、最高の処遇を受けての精神の自由さに触発されてか、まるでフルトヴェングラーそのままの起伏の大きい演奏をするようになった時期に、 「幻想」と共に残した空前の名演奏。録音の古いフルトヴェングラーのレコードを別格とすれば、これほどの生々しい感動を与えてくれる⦅ぶら・いち⦆はほかに出ていない。」(『クラシック・レコードブック VOL.1交響曲編』、1985年)
「音楽に対するミュンシュの最後の情熱は、死の前年に自らが創設したともいえるパリ管弦楽団の上に昇華された。それは、数多くの録音が重ねられてきているブラームスの第1交響曲に、比肩するものがないほどの高い世界を開いたこの最後の年のレコーディングにも十分に示されている。 そこに溢れる豊かな音楽の喜びは、この作品にみられる構造性とドラマティックな要素を、きわめて雄弁に語り尽くしており、フルトヴェングラーをも凌駕するような音楽とスケールの広がりを見せている。 そこでのパリ管弦楽団の機能のすばらしさも驚異であるが、それは、もしかすると、いわば極限のところに生まれた奇跡の一つであったのかもしれない。」(『クラシック名盤大全・交響曲編』、1998年)
「ブラームスのイメージを覆してしまうほど斬新かつドラマティックで、また彫りの深い熱演だ。ミュンシュの手にかかると、作品はアポロ的輝きと生命力と喜びの賛歌を歌っており、未知の体験へと聴き手を誘う。 ブラームスがベートーヴェンになったとでもいえばよいのか、ミュンシュが彼の目と心で見据えた世界は赤く燃え滾っており、演奏もクライマックスに向かってストレートかつスリリングに突進している。 パリ音楽院管弦楽団がパリ管弦楽団に改組された直後の録音だが、指揮者とオーケストラが一丸となった壮絶な気迫があり、演奏芸術の真髄に触れさせる。今なおあたらしい歴史的遺産。」(『クラシック不滅の名盤1000』、2007年)
[収録曲]
ヨハネス・ブラームス Johannes Brahms
交響曲第1番ハ短調作品68
Symphony No. 1 in C Minor, Op. 68
[1] |
第1楽章:ウン・ポコ・ソステヌート〜アレグロ
I.Un poco sostenuto — Allegro |
[2] |
第2楽章:アンダンテ・ソステヌート
II.Andante sostenuto |
[3] |
第3楽章:ウン・ポコ・アレグレット・エ・グラツィオーソ
III.Un poco allegretto e grazioso |
[4] |
第4楽章:アダージョ〜ピウ・アンダンテ〜アレグロ・ノン・トロッポ
IV.Adagio - Piu andante - Allegro non troppo |
詳細
録音 |
1968年1月8日&12日
パリ、サル・ワグラム |
初出 |
La Voix de son Maître: CVB 2085(1968年) |
日本盤初出 |
東芝音楽工業:AA8355(1968年8月) |
オリジナル・
レコーディング |
[プロデューサー]ルネ・シャラン
[レコーディング・エンジニア]ポール・ヴァヴァッスール |