ヴォーカルとトランペットでスタンダード・ソングの魅力を存分に引き出したチェット・ベイカーだけが成し得る不朽不滅のパフォーマンス
いくつものモノーラル・マスターテープの中から「これがオリジナルだ!」と思われるテープを執拗に探し求め、70年前に収録されたサウンドをDSDマスタリング & Super Audio CDハイブリッドディスク化。
スタンダード・ソングの魅力をヴォーカルとトランペットで綴ったチェット・ベイカーの最高傑作
リリースされて70年、ここには未だに決定的な名演とされている、極め付きの歌唱・演奏がいくつも収められています。少しけだるい、“中性的”“退廃的”とも言われたチェット・ベイカーのヴォーカルですが、ひとたびスタンダード・ソングを歌うと、その穏やかで健気な、飾り気のない素直な表現が曲の魅力を最大限に引き出し、どの歌手の作品よりも心に染み入る完成度を示しています。大げさなヴィブラートや声を張り上げることのない歌唱ですが、じっくり聴き込むと音程の正確さ、フレージングの巧みさがひしひしとこちらに伝わってきます。とくに今回は最高の状態のリマスタリングが行えたこともあり、聴けば聴くほど虜になってしまう魅力は半世紀を大幅に超えた現在でも色褪せることなく、自信を持ってお送りできる作品に仕上げることが出来ました。
ヴォーカルとともに歩んだトランペッター、チェット・ベイカー
チェット・ベイカーは1929年12月23日オクラホマシティの近郊、鉱山で一時期賑わったエールに生まれました。高校時代からトランペットを習得し、ダンス・バンドなどで活躍。46年に兵役のため軍隊に入るとアーミー・バンドで腕を磨きました。除隊後はロサンゼルスで音楽理論を学び、50年には再び兵役につきサンフランシスコに駐屯します。そして除隊した52年、西海岸を拠点として活躍していたバリトン・サックス奏者ジェリー・マリガンのピアノレス四重奏団に参加、そこからが本格的な音楽活動となります。その後、自身のグループを結成、そして54年24歳で吹き込んだのがこの作品です。トランペッターと思っていた彼が「sings」というタイトルのもと、ヴォーカリスト(以前から多少は披露していましたが)として本格的に現れたのです。驚きとともに、その独特な歌声に人々は魅せられ、この作品以降、彼は頻繁にヴォーカルを披露するようになり、独特な世界を構築していくことになりました。
彼ならではの物静かな表現、それはトランペットとの相乗効果をなし、1988年に亡くなるまでレコーディング、ステージでその歌声を聴かせました。
究極のスタンダード・ソングの表現、まさにチェット・ベイカーの独壇場がここに
スタンダード・ソングの魅力を最大限に表現しているのが、この作品の特徴ですが、そこには巧みなアレンジ、構成が施されていることにも大きなポイントがあります。それはトランペットとヴォーカルを巧みに使い分けて、様々な色彩感覚を加えている点でもわかります。例えば冒頭曲の「ザット・オールド・フィーリング」と極め付きの名演といわれている7曲目の「バット・ノット・フォー・ミー」。この2曲では導入のヴァースから曲に入りますが、通常テンポなしで入るところをインテンポで、しかもトランペットの吹奏で行います。メインテーマになるとヴォーカルに変わっていくのですが、その変化が巧みで、どんどん曲に引き込まれて行きます。その間にも名演と今でも語られる曲は続きますが、どれも作為が殆ど感じられない自然な構成でありながら、曲の“ツボ”を知り尽くしたアレンジが施されているのです。
54年と56年に収録された本作ではピアニスト、ラス・フリーマンの存在も、曲の構成などにおいて大きな影響力を持っていたと思われます。1926年5月にシカゴで生まれた彼は、30年代からクラシカルなトレーニングを受け、40年代から西海岸で活動を始めます。54年からはチェット・ベイカーのバンドに参加、この作品でも全てのトラックに参加し、裏方に徹しながら、ときにチェレスタを弾くなど、サポートしています。チェット・ベイカーにとって当時、欠かせない人物であり、巧みな構成も彼あってのこと、本作の完成度を高める重要な役割を担っています。
"70年前の音"とは思えないほど生々しいサウンドに蘇る
本作は1954年と1956年に録音されましたが、その後、1962年にリニューアルされました。そのディスクはステレオ化され、さらにギターをオーバー・ダビングし、ジャケットもデザインを変えたものでした。しかも曲目も減らされたり、違うアルバムから加えられたりした12曲という新装された内容になり、それが『チェット・ベイカー・シングス』として流通していました。CD時代になり、やっとオリジナルテープが発掘され現在に至るのですが、最初にCD化されたディスクはヴォーカルが若干引っ込み気味であったし、最近のディスクはメリハリが強調され、ヴォーカルが嗄れているようだったりと問題点はいつかありました。
70年も前に吹き込まれたこともあってか『チェット・ベイカー・シングス』には、いくつものモノーラル・マスターが存在していて、それぞれに微妙な音質やバランスの差が見られました。今回は最良のソースを見つけるために、あらためてアーカイブ内のいくつかのテープを調査。音質的に最良と判断したテープを選び、あらたなマスタリングを施しました。
今回リマスタリングされた音は、そうした問題点を完璧にクリアしたオリジナルテープそのもののサウンドといって良いほどで、かなりの完成度を得ることが出来たと自負しています。クリアになったヴォーカルをぜひとも聴いていただきたい、と胸を張って言えるだけの音に仕上がりました。圧倒的な生々しさでヴォーカルとトランペットがこちらに迫ってきます。もちろん、70年前の録音ですから、今ここで演奏しているそのまま、という訳ではありません。当時の制作スタッフが提供しようと試みた音楽の本質が刻まれたオリジナルのサウンドに極めて近づいたという意味で“リアル”なサウンドに甦らせた、まさにマスターの音が再現されたのです。ノイズも処理するレベルではなく、全く気にならず、改めて、モノーラルにも拘らず当時の録音技術の高さに感嘆し、ヴォーカルとトランペットの溌剌とした語りかけに心踊らせていただければと思っています。
最高の状態でのSuper Audio CDハイブリッド化が実現
いずれもこれまで同様、使用するマスターの選定から、最終的なDSDマスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業をおこないました。特にDSDマスタリングにあたっては、「Esoteric Mastering」を使用。 入念に調整されたESOTERICの最高級機材Master Sound Discrete DACとMaster Sound Discrete Clockを投入。またMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、オリジナル・マスターの持つ情報を伸びやかなサウンドでディスク化することができました。
「よくぞこんなマスターが存在していた、と言いたくなるほど良好な状態で保管されていた音源からの丁寧なリマスタリング。オリジナルLPと同じような音の質感を耳にすることができる。」
「もう70年も前に吹き込まれた『チェット・ベイカー・シングス』には、いくつものモノーラル・マスターが存在していて、それぞれに微妙な音質やバランスの差が見られた。今回は最良のソースを見つけるために、あらためてアーカイブ内のいくつかのテープを調査。現存するもっとも良質なアナログ・マスターとして、LP初版時のオリジナル・マスターテープと60年代に作られたサブ・マスターテープがベストであるという判断のものにチョイスされた。それにしても“よくぞこんなマスターが存在していた!”と言いたくなるほど良好な状態で保管されていたものをもとに、丁寧にリマスター作業がなされて、オリジナル・モノーラルLPと同じような音の質感を耳にすることができる。」
本作ライナーノートより
「チェットはすぐれたトランペッターだったが、ちょっと退廃的でささやくような甘いヴォーカルも味わい深く魅力があった。ここでは歌とともにトランペットも聽かせるのでチェットの魅力を2倍楽しめるともいえる。スタンダードの数々が聴けるが、とくに「バット・ノット・フォー・ミー」「ルック・フォー・シルヴァー・ライニング」がいちばん好きだ。」
『モダン・ジャズ決定版 名盤500』音楽之友社ONTOMO MOOK 1993年
「けっして声量があるわけではないが、個性ということで言うならば、これほどオリジナリティをもったシンガーというのは、他に類を見ない。「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」を筆頭に「アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥ・イージリー」「ザ・スリル・イズ・ゴーン」などのバラードはとくに秀逸。彼の歌声が不思議な説得力をもって深く心に染み込んでくる。」
『完全新版モダン・ジャズ名盤500』音楽之友社ONTOMO MOOK 1999年
「彼の中でも代表的なヴォーカル・ナンバー「ザット・オールド・フィーリング」、ソフトな歌声とリリカルなトランペットによる「イッツ・オールウェイズ・ユー」、哀愁が滲み出た渋いヴォーカルを聽かせる「マイ・アイディアル」、アンニュイなムードを目一杯表現した「ゼア・ウィル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー」など、語り尽くされた名演の他にもたくさんの不滅の名演がこの作品には存在している。」
『スタンダード・ジャズのすべて大事典』全音楽譜出版社 2006年
「歌手チェット・ベイカーの最高傑作に違いない。おすすめするのはオリジナルのモノーラル盤だ。きっとチェットは自分の好きな歌曲を集めたのだろう。まるで自分自身の楽しみのために歌っているようだ。ヴォーカルはストレートか軽くフェイクする程度にしている。声を張らずにソフトに語るようなフィーリングで歌う。デリケートな感性とセンシティブな歌心が見られ、ロマンティックであり、美しいリリシズムが光っている。」
『新説ジャズ名盤・ウラ名盤』スイングジャーナル社 1989年
「ズラリ並んだスタンダードの名曲すべてを、彼は見事に自分のカラーに塗り替えてしまった。余計なフェイクはせず、メロディを忠実に歌う、この頃の彼の歌は、技巧にはしらないシンプルなトランペット・プレイと調和して、独自な世界を築き上げている。ラス・フリーマンをはじめとするリズム・セクションも雰囲気をわきまえ地味だが趣味の良いバッキングに徹している。」
『ジャズ・ジャイアンツこれが決定盤』スイングジャーナル社 1987年
[収録曲]
◇チェット・ベイカー(1929-1988)
協奏曲 第1番 ヘ長調 BWV1046
| [1] |
ザット・オールド・フィーリング |
| [2] |
イッツ・オールウェイズ・ユー |
| [3] |
ライク・サムワン・イン・ラヴ |
| [4] |
マイ・アイディアル |
| [5] |
アイヴ・ネヴァー・ビーン・イン・ラヴ・ビフォア |
| [6] |
マイ・バディ |
| [7] |
バット・ノット・フォー・ミー |
| [8] |
タイム・アフター・タイム |
| [9] |
アイ・ゲット・アロング・ウィズアウト・ユー・ヴェリー・ウェル |
| [10] |
マイ・ファニー・ヴァレンタイン |
| [11] |
ゼア・ウィル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー |
| [12] |
ザ・スリル・イズ・ゴーン |
| [13] |
アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥー・イージリー |
| [14] |
ルック・フォー・ザ・シルヴァー・ライニング |
[詳細]
チェット・ベイカー(vo、tp)
ラス・フリーマン(p, celesta )[3、4、6]
ジミー・ボンド(b)[1〜6]
カーソン・スミス(b)[7〜11、13、14]
ジョー・モンドラゴン(b)[12]
ピーター・リットマン(ds)[1、2、5]
ローレンス・マラブル(ds)[3、4、6]
ボブ・ニール(ds)[7〜11、13、14]
シェリー・マン(ds)[12]
| 録音 |
ハリウッド、キャピトル・スタジオ
1954年2月15日[7〜11、13、14]
1956年7月23日[1、2、5]
1956年7月30日[3、4、6] |
| 初出 |
Pacific JAZZ PJ-1222(10インチ PJ LP-11) |
| 日本盤初出 |
World Pacific Records SMJ-7183(1964) |
| オリジナル・レコーディング |
[プロデュサー]リチャード・ボック
[レコーディング・エンジニア]リチャード・ボック |
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