熱かった60年代のジャズ・シーンに大きな風穴を開けたチック・コリア不朽の記録
1960年代後期、ピアノ・トリオの名作が最新DSDマスタリングで蘇る。オリジナルLPと同じ曲順に加えて、当時未発表だった同日のセッションも網羅し、初Super Audio CD Hybrid化された完璧な記録。
「名盤復刻」ジャズ再始動 — ESOTERIC、5年の沈黙を破り新作リリース
ESOTERIC(エソテリック)は、新たにジャズの名盤復刻シリーズを開始いたします。第一作は、若きチック・コリアが1968年にSolid Stateレコードに残した、トリオ作「ナウ・ヒー・シングス、ナウ・ヒー・ソブス」。定評の丁寧なマスタリング作業と、独自のデジタル技術を駆使して開発した「Esoteric Mastering」の音楽表現力により、さらなる感動をお届け出来るスーパーオーディオCDに仕上がっています。ジャズ作品は、シリーズ化を予定しております。
熱かった60年代のジャズ・シーンに大きな風穴を開けたチック・コリア不朽の記録
チック・コリアのリーダー・アルバム第2弾、ピアノ・トリオとしては初めてのレコーディングにして最高傑作と言われている名作をお届けします。エソテリックとしては久々、数年ぶり、待望久しいジャズ企画です。従来のジャズはセット販売でしたが、今回は初めての単独リリース、初Super Audio CDハイブリッド化。ジャズ激動の1960年代を代表する、いや20世紀を、いやいや現在においても未だなお新鮮なピアノ・トリオの大傑作であり、不朽の輝きを放つ名演奏が収められています。
それまで主流だったビバップを基調としたモダン・ジャズ、それを発展させた、より情動的なハードバップというスタイルが定着し始めた1950年代中期以降、ジャズは一層進化の度合いを早めていきました。複雑化したコード進行からの開放、より自由さを求めた、モード手法による演奏が試みられ、更には調性からの脱却によるフリー・ジャズも出現、60年代になると、それとは対極のリー・モーガン『サイドワインダー』、ハービー・ハンコック『ウォーターメロン・マン』、ラムゼイ・ルイス『ジ・イン・クラウド』、ハービー・マン『メンフィス・アンダーグラウンド』など、ロック・ビートを基調としたポップなヒット作も誕生、ウェス・モンゴメリーの『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』のようにストリングスをバックにポピュラー作品を演奏するイージーリスニング・ジャズなども流行し始めます。一方ハードバップも健在、マイルス・デイヴィスなどはモード手法を、ジョン・コルトレーンはより一層急進的なフリー・ジャズへと向かっていき、ジャズは多極化していきました。
そんな60年代後半にレコーディングされた『Now He Sings, Now He Sobs』は、熱かった60年代の最も進歩的な解釈によるストレートアヘッドなピアノ・トリオとして注目されました。日本でも発売されるや否や当時全国に多く存在していたジャズ喫茶でもリクエストが集中、ジャズ専門誌月刊「スイングジャーナル」でも大きく取り上げられ、評者・植草甚一氏はタイトルを『歌っているかと思ったら、啜り泣いている』と訳され、演奏を絶賛、ビル・エヴァンス、オスカー・ピーターソンによる演奏とは一味違う新しいコンセプトは日本でも多くの支持を得るようになりました。
新鋭ベーシスト、ヴィトウスと百戦錬磨のヴェテラン、ロイ・ヘインズによって生み出された最もモダンでストレートな演奏
チック・コリア(1941年6月12日-2021年2月9日)は録音当時27歳、メキメキと実力をつけていた時期で、翌年にはマイルス・デイヴィスのグループにも参加、大傑作『ビッチェズ・ブリュー』のレコーディングにも加わりました。その後、70年代には本作品とは趣を異にするフュージョン系のサウンドによる『リターン・トゥ・フォーエヴァー』を結成、ジャズの範疇を超えた大ヒット作を生み出しました。
ベースのミロスラフ・ヴィトウス(1947年12月6日- )はチェコ出身。10代の頃からチェコ・フィルの奏者にベースの習い、フリードリヒ・グルダ主催、国際ジャズ・コンクールのベース部門において優勝、そしてニューヨークへ赴き、本セッションに抜擢された当時20歳の新進気鋭。70年にはマイルス・デイヴィスのグループとともに注目されたバンド『ウェザー・リポート』の結成メンバーに加わりました。
ロイ・ヘインズ(1925年3月13日 - 2024年11月12日)は40年代から活動している人で、当時43歳。ミュージシャンとして一番充実していた時期でのセッションです。レスター・ヤング、チャーリー・パーカー、マイルス・デイヴィス、セロニアス・モンクといった大御所との演奏経験も多く、やや旧態依然とした演奏スタイルを想像した方も多かったようですが、ここでは年齢ギャップを全く感じさせない物凄く斬新なドラミングでグループを牽引しています。
オリジナルLPに準拠し、その後に未発表テイクを加えた完璧な録音セッションの記録
第1曲目「ステップス」のスピード感、ドラム・ソロを挟んで始まる「ホワット・ワズ」のチック・コリアならではの切なく美しいメロディ・ライン、そしてブルース・フォームによる「マトリックス」。この流れこそ新しいピアノ・トリオの誕生を告げる演奏だった、といっても過言ではないでしょう。オリジナル・アルバムではトラック5までの5曲のみでのリリースでしたが、その後、未発表だったテイクも発見され、30年以上前のCDリリースではそれらも含めてはいたものの、第1曲目は「マトリックス」次に「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」という人気曲主導の配列になっていました。しかしリリース当初のイメージからは離れていってしまい、何となく違和感を持ってしまった人も少なくなかったようです。やはりオリジナル通りの曲順にしてほしいという要望も多く、最近はまたオリジナルの曲順に戻り5曲のみのリリースなども行われています。本作も初回LPと同じ曲順に収め、次に未発表曲が続くという曲の流れに戻してのリリースにいたしました。
エソテリック・マスタリング・センターならではの音質
CDではピアノ、ベース、ドラムスが中央付近に定位するステレオ・バランスでしたが、オリジナル曲はマスターに近いとされる中央にピアノ、左方向にドラムス、右にベースという配置を再現しています。ただし、60年代前半のような俗に言う「ピンポン・ステレオ」的な左チャンネル、右チャンネル独立したような配置ではなく、あくまでも自然な広がりになっています。チック・コリアはやや硬質なピアノのタッチで記録されていますが、その硬質な中にある、きれいな余韻、澄んだ倍音成分も余す所なく収めることを心がけました。タッチにしなやかさ、柔らかさ、ふくよかさを味わうことができましたら幸いです。ドラムス、ベースとのバランスも含め、半世紀前のセッションがいまここにワープしてきたようなリアリティを追求しました。
多様性を極めてきたジャズの生々しい姿を的確に再現することを目指したマスタリング
ジャズでもステレオ録音が定着した60年代後期の名盤ですが、Super Audio CD ハイブリッド化は今回が初めて。これまで同様、使用するマスターの選定から、最終的なDSDマスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業をおこないました。特にDSDマスタリングにあたっては、「Esoteric Mastering」を使用。 入念に調整されたESOTERICの最高級機材Master Sound Discrete DACとMaster Sound Discrete Clockを投入。またMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、オリジナル・マスターの持つ情報を伸びやかなサウンドでディスク化することができました。
タッチの美しさ、正確なリズム感、切れ味鋭いソロ、アイデアの豊富さなど、どれをとっても文句なしの素晴らしさだ
「珠玉のごとき音色とめくるめくフレージング、絶妙なタイミングとさわやかなコンセプト、加えてソリッドな躍動を持つ彼のピアノ…(中略)。素晴らしいピアノ・トリオ盤だ。」
『ジャズ・レコード百科 ’79』1979年・スイングジャーナル社
「いままで体験したことがない、研ぎ澄まされたフレーズ、正確なタイムを刻むバッキング。スピード感があってもごまかしのない音符の連続、鋭利の刃物のような鋭いソロ…(中略)、まったく新しいタイプのピアニストの登場を実感した。」
『ジャズ・ジャイアンツ これが決定盤』1986年・スイングジャーナル社
「多面多才タイプのチック・コリアによるストレートアヘッドな、しかも稀に見る傑作である。名手たちの協力を得て録音したこの年、チックはマイルス・グループに参加した。絶妙なタイム・センス、身の引き締まるようなリリシズムが、ここではより一層輝きをみせている。未発表の中にはスタンダード曲やセロニアス・モンクの曲も含まれていて、アルバムそのものにヴァラエティさが増したのもよい。」
『新説ジャズ名盤・ウラ名盤』1988年・スイングジャーナル社
「チック・コリアの持っているロマンティックな一面とともに、意欲的な実験精神までが充分盛り込まれたこのアルバムは、それまでのピアノ・トリオの枠を越えた、極めてフレッシュな作品として、いまなお決定的な評価を得ている。トリオというオーソドックスなフォーマットの中に、彼の挑戦的なスピリッツがいっぱいに込められているのだ。」
『モダン・ジャズ名盤500』1993年・音楽之友社 ONTOMO MOOK
「演奏にも作曲にも全精力をそそぎ込み、チック・コリアならではの語法やスタイルが表れ出た。ハイライトはやはり自作ブルースの“マトリックス”、さらに未発表曲では“マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ”が出色。ピアノ・トリオの系譜としても欠かすことのできない重要作品である。」
『ゴールドディスク事典』1998年・スイングジャーナル社
「スピード感満点。チック・コリアはほとばしるアイデアを何のためらいもなく一気に吐き出している。タッチの美しさ、正確なリズム感、切れ味鋭いソロ、アイデアの豊富さなど、どれをとっても文句なしの素晴らしさだ。チック・コリアの創造性が一番いい形で結実した作品。」
『完全新版モダン・ジャズ名盤500』1999年・音楽之友社 ONTOMO MOOK
[収録曲]
◇アントン・ブルックナー(1824-1896)
[1] |
ステップス – ホワット・ワズ |
[2] |
マトリックス |
[3] |
ナウ・ヒー・シングス、ナウ・ヒー・ソブス |
[4] |
ナウ・ヒー・ビーツ・ザ・ドラム、ナウ・ヒー・ストップス |
[5] |
ザ・ロウ・オブ・フォーリング・アンド・キャッチング・アップ |
[6] |
サンバ・ヤントラ |
[7] |
ボッサ |
[8] |
アイ・ドント・ノウ |
[9] |
フラグメンツ |
[10] |
ウインドウズ |
[11] |
ジェミニ |
[12] |
パノニカ |
[13] |
マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ |
[詳細]
チック・コリア(ピアノ)
ミロスラフ・ヴィトウス(ベース)
ロイ・ヘインズ(ドラムス)
録音 |
1968年3月14、19、27日、A&Rスタジオ、ニューヨーク |
初出 |
Solid State SS1809(1968) |
日本盤初出 |
キング・レコード SR3029(1968) |
オリジナル・レコーディング |
[プロデューサー]ソニー・レスター
[レコーディング・エンジニア]ドン・ハーン |
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