まるで指揮台の上で聴くような生々しい音作り
20世紀オーケストラ芸術の頂点を極めたオーマンディとフィラデルフィア管弦楽団。この名コンビが最後に到達した空前の境地を鮮烈に捉えた名録音の数々が最新DSDリマスタリングで登場。
エソテリックによる名盤復刻シリーズ SACDハイブリッドソフト
ESOTERIC(エソテリック)は、「ESOTERIC名盤復刻シリーズ」スーパーオーディオCDハイブリッド盤3作品を発売開始いたします。社内に構築した「エソテリック・マスタリング・センター」にてリマスタリングを行いました。定評の丁寧なマスタリング作業に、独自のデジタル技術を駆使して開発した「Esoteric Mastering」の音楽表現力が加わり、さらなる感動をお届け出来るスーパーオーディオCDに仕上がっています。
20世紀のオーケストラ演奏を定義したオーマンディとフィラデルフィア管
ハンガリー出身の名指揮者ユージン・オーマンディ(1899-1985)のフィラデルフィア管弦楽団との演奏活動は、ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルと共に、技術的にもレパートリーの幅広さから見ても、20世紀オーケストラ史上最も高い水準を極めたものといえましょう。世紀末の爛熟のブダペストに生まれ、巨匠フバイのもとで学び将来を嘱望されるヴァイオリニストとして音楽的なキャリアを開始したオーマンディは、1921年アメリカに移住、キャピトル劇場の団員から始め、ミネアポリス交響楽団を経て1938年、レオポルド・ストコフスキーの後継者としてフィラデルフィア管の音楽監督に就任。その後42年にわたって同管と音楽活動を共にし、20世紀オーケストラ史上最高峰の存在へと育て上げました。録音面でも、SP時代からデジタル時代にかけて半世紀にわたってレコード制作に熱心に取り組み、膨大なディスコグラフィを築き上げ、特にフィラデルフィア管とのステレオ録音は20世紀後半のレコード産業の中でクラシック音楽の演奏の規範を作り上げた存在だった、と表現しても過言ではないほど、世界中の音楽ファンに親しまれました。今回当シリーズで復刻する2枚組のセットは、このコンビが1978年から79年にかけてEMIに残したLP4枚分のアルバムから選曲したもので、彼らが最後に辿り着いた至高の境地を音に刻んだ、まさに歴史に残る音楽遺産ともいえる名演ぞろいです。
EMIによる新鮮なフィラデルフィア・サウンド
SP時代以来、アメリカのメジャー・オーケストラの録音は、自国のレコード会社であるRCAとコロンビアがほぼ独占してきました。第2次大戦後、LPという新しいメディアが生み出され、さらにステレオ録音が導入されてからもしばらくこの状況は変わりませんでしたが、1960年代後半からヨーロッパ系のレコード会社は市場の拡大を狙いアメリカのオーケストラとの録音交渉を開始します。先鞭をつけたのはEMIで、1968年にエミール・ギレリスとの共演という形でジョージ・セル/クリーヴランド管との録音を実現させ、さらに翌1969年からは自社と専属契約があったカルロ・マリア・ジュリーニが首席指揮者を務めていたシカゴ響との録音を開始。1970年にはデッカがゲオルグ・ショルティおよびシカゴ響と契約し、同じ年ドイツ・グラモフォンがボストン響と録音契約を結ぶなど、新規参入が続きます。EMIがフィラデルフィア管にアプローチしたのは、自社が売り出し中だった指揮者リッカルド・ムーティが同管でオーマンディの後継者に指名されるという経緯があったからで、録音プロジェクト自体は1978年2月、オーマンディ指揮によるシベリウスとヒンデミットのアルバムで始動します。その翌月にはムーティとの初録音(ムソルグスキー「展覧会の絵」、ストラヴィンスキー「火の鳥」、ベートーヴェン:交響曲第7番)も実施されており、オーマンディが勇退する1982年まで、EMIはこの二人の指揮者によって録音を継続していくのです。
まるで指揮台の上で聴くような生々しくダイレクトなサウンド
フィラデルフィア管のEMI録音は、ムーティがストラヴィンスキー、チャイコフスキー、プロコフィエフ、R=コルサコフなどロシアものをメインに録音していたのに対して、オーマンディはR.シュトラウス、シベリウス、バルトーク、ヒンデミットなど20世紀のオーケストラ曲に集中する感がありました。オーマンディのEMI初録音となった1978年2月のシベリウス「4つの伝説曲」(そのうちの2曲を当2枚組に収録)は、有名な「トゥオネラの白鳥」以外はオーマンディによるステレオ録音がなく4曲まとめての録音は1951年のコロンビアへのモノラル録音以来の再録音でしたし、ヒンデミットの「弦楽と金管のための演奏会用音楽」、バルトークの「弦楽器・打楽器とチェレスタのための音楽」もオーマンディにとって初録音でした。一方で1979年11月に録音され、1980年12月に発売されたR.シュトラウスの人気曲「ツァラトゥストラはかく語りき」は、直前のRCAへのステレオ録音が1975年2月だったため5年も満たぬ期間を経ての再録音となったのは異例のことで、発売まで1年待つことで当時のスタンダードだった「5年間は再録音禁止」という期間をぎりぎりクリアしてのリリースとなったのでした。この2枚組の中で「ツァラトゥストラ」はデジタル収録されており、新しい録音技術の効果を存分に発揮できるという点で敢えて選曲されたものと思われ、EMI側もそれだけ新技術の採用に力を入れていた証左といえましょう。オーマンディはこの時期RCAにも録音を継続していたため、レパートリー曲のオーバーラップは避けるように配慮されていましたが、シベリウスだと交響曲第1番や第4番、バルトークだと「管弦楽のための協奏曲」、R.シュトラウスだと「死と変容」のように、同じ作曲家の別作品で同時期にRCAに録音された例もあり、レーベルによるソノリティの差異を聴き比べることができます。
巨大なオールド・メットでの録音
これらのEMI録音は「オールド・メット」と呼ばれたフィラデルフィアのオールド・メトロポリタン・オペラ・ハウス(現在「ザ・メット・フィラデルフィア」としてロックやポップスの公演に使用)で行われました。ここは1908年、興行主オスカー・ハマースタイン1世によってフィラデルフィア・オペラの本拠地として建設された3500席のキャパシティを持つ巨大な劇場で、1934年まで歌劇場として使われる傍ら、映画上映やダンスホール、バスケットボールやレスリング、ボクシングなどのスポーツ・イベントにも用いられるようになりました。1954年に社会運動家で牧師のレオン・サリヴァンが購入し、サリヴァンは教会として使用し、さまざまな宗教的・文化的なイベントが行われるようになりました。EMIはフィラデルフィア管との録音に際して、ステレオ時代以降RCAやコロンビアが使用していたタウン・ホール(1970年代にはスコティッシュ・ライト・カテドラルと名称変更)やフィラデルフィア管の演奏会が行われていたアカデミー・オブ・ミュージックではなく、新たな録音会場を探し求め、市内もしくは近郊の14会場を調査した結果、この「オールド・メット」が選ばれたのでした。建物自体は老朽化が進み、大音量で演奏すると天井から漆喰のかけらが崩落するような録音環境としてはひどい会場でしたが、広大な空間もあって音響効果自体は素晴らしくEMIは1984年までここを録音会場として使用していました。
まるで指揮台の上で聴くような生々しい音作り
「オールド・メット」で録音されたオーマンディのEMI録音サウンドは、それまでのRCAやコロンビアの志向した音作りと大きく異なるものでした。RCAやコロンビアが程度の差こそあれ、オーケストラ全体のソノリティと細部の明晰さとのバランスを取り、温かみのあるサウンドを生み出していたのに対して、EMI録音はマスの響きよりも各パートのクリアさを重視し、しかもエッジを際立たせた極めて明晰なサウンドが志向されていました。木管や金管は個々の奏者の息遣いが聴こえるようにクローズアップされ、それらと拮抗する弦楽パートもフルヴォリュームでミキシングされ、左右のスピーカー一杯に巨大な音像が広がり、まるで指揮台上でオーマンディ自身が耳にしているような音作りが施されています。オーケストラのそれぞれのパートの動きが目に見えるようで、全体的にフィラデルフィア管の奏者たちの弾きっぷり・吹きっぷりの鮮やかさを生々しく体験でき、録音レパートリーもそうした音の重なりやうねりの面白さを重視して選ばれていることがわかります(2群のオーケストラを左右に配置するバルトークの「弦・チェレ」ではその効果が鮮やかに出ています)。オーマンディとフィラデルフィア管はこの時期EMIとRCA以外にテラークやデロスにも録音を残していますが、EMI録音ほどこのオーケストラのヴィルトゥオジティを極限の形で具現化させた音作りはしていません。またムーティ指揮による同時期のEMI録音は、オーマンディとは対照的な、いわばEMIらしい距離感のある音作りがなされており、指揮者によって大きく異なっている点が興味深いところです。
最高の状態でのSuper Audio CDハイブリッド化が実現
プロデュースはEMIのジョン・ウィラン(のちにロンドン・フィルやBBCミュージックの音楽部長などを歴任する人物)で、エンジニアリングはR.シュトラウス以外はアビーロード・スタジオのエンジニア、ジョン・カーランダーが担っています。カーランダーは16歳からアビーロードで働き始め最初の仕事がビートルズの『アビーロード』のアシスタント仕事だったというベテランで、その後ビートルズの4人のソロ・アルバム制作にもかかわっています。最近では「ロード・オブ・サ・リング」の録音を手掛けたことで高く評価されています。オーマンディのアルバムでも、シベリウスとヒンデミットが発売時にグラミー賞の「ベスト・エンジニア録音」にノミネートされているほどで、これまでのオーマンディ/フィラデルフィア管のイメージとは大きく異なる音作りが評価されています。録音フィールドをクラシック専門に絞らない耳が、これまでにない音作りを可能にしたのかもしれません。このようにLP発売時に録音面で評価されたため、CD時代に入ると比較的早くからCD化されることになりました。2016年には初めてSuper Audio CDハイブリッド用にもリマスターされています。今回は8年ぶりのリマスターかつ2度目のSuper Audio CDハイブリッド盤となります。これまで同様、使用するマスターの選定から、最終的なDSDマスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業をおこないました。特にDSDマスタリングにあたっては、「Esoteric Mastering」を使用。 入念に調整されたESOTERICの最高級機材Master Sound Discrete DACとMaster Sound Discrete Clockを投入。またMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、オリジナル・マスターの持つ情報を伸びやかなサウンドでディスク化することができました。
『改めてこのコンビの凄さを垣間見たような素晴らしい演奏』
「『ウェーバーの主題による交響的変容』は、最初の第1主題が出てくるその瞬間からぐっと引き付けられる全く弛緩したところのない演奏で、どの変奏もしっかりとよくまとまっている。終楽章の金管の音の冴えなど、まさにフィラデルフィア・サウンドそのものだ。『演奏会用音楽』も卓抜な演奏である。」
『レコード芸術』1980年1月号・推薦盤
「バルトークの『弦・チェレ』といえば、単に彼の最高傑作であるばかりでなく、20世紀の管弦楽作品の中でも一つの頂点を築いたものといえる。それは語法の上だけではなく、精神的な緊張感や構成感においてでもある。オーマンディは『中国の不思議な役人』組曲との双方にすばらしいバランス感覚にあふれる演奏を展開している。そしてその根本には民族的な語法への明らかな共感がある。(・・・)ヒンデミットの2曲はいずれも弦の磨き抜かれたアンサンブルとその音色の美しさを魅力のファンダメンタルとした点、まさにオーマンディらしい解釈であるが、冴えて輝きに溢れるフィラデルフィアの金管群も知れに負けていない。『交響的変容』がかくも鮮明で親しみぶかい音楽として提出されたことがあっただろうか。イキで、キリリと引き締まった演奏は第1楽章から快適そのもの。終楽章の熱奏ぶりや『演奏会用音楽』の卓抜な進展ぶりは、これぞオーマンディ晩年を飾る傑出した演奏といいたい。」
『クラシック・レコードブック VOL.2 管弦楽曲編』1985年
「オーマンディはCBSやRCAにも『ツァラトゥストラ』を録音していたが、このEMI録音は彼の音楽監督としては最後のシーズンになされたものであり、また、デジタル録音のために、前回の録音から約4年しか経ずに再録音されたものである。オーケストラの中に彩られた対位法の機敏は、多彩の推移とともに完全といえるほどによく画きだされており、弦楽器の響きを主題としながらも、彼は明らかに円熟を示しており、一つの飛躍さえ感じられる。」
『クラシック・レコードブック VOL.2 管弦楽曲編』1985年
「晩年のオーマンディはまさに天衣無縫ともいうべき心境に達していたらしい。すべての欲とか得にこだわらず、本当に自分の気に入ったレパートリーだけを録音していたようだ。1978年録音のバルトークの《中国の不思議な役人》と《弦楽器・打楽器・チェレスタのための音楽》はともに、尊敬する祖国の先輩作曲家に対するオマージュだったのだろう。《弦・チェレ》はフィラデルフィアの名人芸にすべてを委ね、《役人》も実にメロウなサウンドで包んだ美しい演奏になっている。ここにはバルトークのラディカルさはさらさらなく、洗練されたオーマンディの職人芸が光り輝いている。改めてこのコンビの凄さを垣間見たような素晴らしい演奏である。」
『クラシック不滅の名盤800』1997年
「オーマンディが、作曲者自身も認めるようなシベリウスのエキスパートであったことはよく知られているが、1978年にEMIに録音された《4つの伝説曲》にもそれを裏付けるものがある。豊麗なフィラデルフィアの機能を生かしながら、彼が、それを北欧のロマン的な世界に近づけているのが聴きものであるし、無駄のなさが、音楽をより深いところに導いている。」
『クラシック名盤大全・管弦楽曲編』1998年
「42年に及んだオーマンディ&フィラデルフィアの名コンビによる末期の録音で、安定しきった完璧無類のアンサンブルが優秀なアナログ録音によって見事に捉えられている。オーマンディは作曲者と同郷で同時代人であるが、ここでは民族性や時代精神を強調することなく、スコアを丁寧に追いながら、美しい彫琢によって鳴らし切り、時空を超えた傑作として再現している。両極にまつわる夾雑物が取り除かれたことにより、《役人》では常に高まってゆく楽曲の特質が浮かび上がり、《弦・チェレ》では変則的なフーガや印象派風の色彩感、弦楽器群の対向配置によるぶつかり合いなどの目覚ましい書法に、より焦点が当たるようになった。」
『最新版・クラシック不滅の名盤1000』2018年
[収録曲]
■DISC 1
◇リヒャルト・シュトラウス(1864-1949)
[1] |
交響詩《ツァラトゥストラはかく語りき》作品30 |
| 序奏(日の出) |
| 後の世の人びとについて |
| 大いなる憧れについて |
| 歓喜と情熱について |
| 埋葬の歌 |
| 科学について |
| 病から回復に向かう者 |
| 舞踏の歌 |
| さすらい人の夜の歌 |
◇パウル・ヒンデミット(1895-1963)
ウェーバーの主題による交響的変容 |
[2] |
. Allegro |
[3] |
.“Turandot, Scherzo”, Moderato - Lebhaft |
[4] |
. Andantino |
[5] |
. Marsch |
弦楽合奏と金管楽器のための演奏会用音楽 作品50 |
[6] |
Part I:Mäßig schnell, mit Kraft – Sehr breit, aber stets fließend |
[7] |
Part II:Lebhaft - Langsam – Im ersten Zeitmaß(Lebhaft) |
■DISC 2
◇ベラ・バルトーク(1881-1945)
弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽 Sz106 |
[1] |
. Andante tranquillo |
[2] |
. Allegro |
[3] |
. Adagio |
[4] |
. Allegro molto |
組曲《中国の不思議な役人》 Op.19, Sz73 |
[5] |
第1曲:導入部 |
[6] |
第2曲:カーテンが上がる |
[7] |
第3曲:第1の誘惑 |
[8] |
第4曲:第2の誘惑 |
[9] |
第5曲:第3の誘惑 |
[10] |
第6曲:役人の登場 |
[11] |
第7曲:少女の踊り |
[12] |
第8曲:おいかけ 〜 男たちが飛び出す |
◇ジャン・シベリウス(1865-1957)
《レンミンカイネン》組曲作品22 (4つの伝説曲 作品22)より |
[13] |
第2曲:トゥオネラの白鳥
ルイス・ローゼンブラット(コーラングレ) |
[14] |
第4曲:レンミンカイネンの帰郷 |
◇サミュエル・バーバー(1910-1981)
[詳細]
フィラデルフィア管弦楽団
指揮:ユージン・オーマンディ
録音 |
[DISC1 1]1979年11月24日(デジタル録音)
[DISC1 2-7]1978年2月25日&11月10日
[DISC2 1-12]1978年11月18日、20日
[DISC2 13-14]1978年2月20日
[DISC2 15]1978年2月25日
フィラデルフィア、オールド・メトロポリタン・オペラ・ハウス(現:ザ・メット・フィラデルフィア) |
海外盤初出 |
[DISC1 1]His Master's Voice ASD 3897(1980年)
[DISC1 2-7]His Master's Voice ASD 3743(1979年)
[DISC2 1-12]His Master's Voice ASD 3655(1979年)
[DISC2 13-14]His Master's Voice ASD 3644(1979年)
[DISC2 15]Angel DS 538270(1985年) |
日本盤初出 |
[DISC1 1]Angel EAC90005(1980年11月21日)
[DISC1 2-7]Angel EAC80553(1979年11月20日)
[DISC2 1-12]Angel EAC80525(1979年6月20日)
[DISC2 13-14]Angel EAC80493(1979年2月20日)
[DISC2 15]EMI TOCE-8598(1995年2月22日) |
オリジナル・レコーディング |
[レコーディング・プロデューサー]ジョン・ウィラン
[バランス・エンジニア]
[DISC1 1]マイケル・グレイ
[DISC1 2-17、DISC2]ジョン・カーランダ
|
※製品の仕様、外観などは予告なく変更されることがありますので、予めご了承ください。