アバド全盛期を刻印したペルゴレージの名作
哀切極まるペルゴレージ絶筆の名作に加え、シカゴ響の伝説的名奏者レイ・スティルとのモーツァルトをフィルアップした豪華カップリングの決定的名演が最新DSDマスタリングで蘇る。
エソテリックによる名盤復刻シリーズ SACDハイブリッドソフト
ESOTERIC(エソテリック)は、「ESOTERIC名盤復刻シリーズ」スーパーオーディオCDハイブリッド盤3作品を発売開始いたします。社内に構築した「エソテリック・マスタリング・センター」にてリマスタリングを行いました。定評の丁寧なマスタリング作業に、独自のデジタル技術を駆使して開発した「Esoteric Mastering」の音楽表現力が加わり、さらなる感動をお届け出来るスーパーオーディオCDに仕上がっています。
アバド全盛期を刻印したペルゴレージの名作
イタリアの名指揮者クラウディオ・アバド(1922-2014)の録音は、アナログ完成期からデジタル時代にかけて数多く残されており、このシリーズでもたびたび取り上げ、ご好評をいただいてきました。今回はアバドが、ヴェルディ《レクイエム》と並んで演奏活動のごく初期から取り上げた声楽曲で、生涯にわたって愛奏したペルゴレージの名作《スターバト・マーテル》を最新のリマスタリングでお届けいたします。26歳の若さで夭逝した18世紀イタリアの作曲家ペルゴレージの代表作として知られるこの作品は、独唱者二人と弦楽アンサンブルというコンパクトな編成によりながら、十字架の傍らにたたずむ聖母マリアの悲しみが痛切に伝わってくる傑作。アバドは1968年のザルツブルク音楽祭におけるベルリン・フィルとの演奏会で演奏して以来、ミラノ・スカラ座の弦楽アンサンブル(1969/70年、1979/80年)、シカゴ交響楽団(1984年)などで取り上げており、1979年8月のケルンテンの夏音楽祭のスカラ座との演奏はユニテルによって映像収録され欧米でTV放映されました。その上で、この作品のアバドの演奏解釈を伝番したのは今回世界で初めてハイブリッド化されるロンドン交響楽団とのドイツ・グラモフォンへの録音で、1983年暮れにセッションが組まれたもの。ロンドン響とは1972年にこの作品を取り上げており、ほぼ10年ぶりのリバイバルとなった機会をとらえての録音でした。
劇的な要素と瞑想的な要素を巧みに組み合わせたペルゴレージの名演
アバドは1979年、プレヴィンの後任としてロンドン交響楽団の首席指揮者に就任し、楽団員と良好な関係を築き上げ、オーケストラのモチベーションを向上させました。アバドはロンドン響とは指揮活動の最初期である1966年から客演しており、エジンバラ音楽祭で成功を収めたオペラ上演も含む数多くの演奏会で共演し、並行して録音も活発に行われていたので、いわば旧知の仲でした。1983年のアバドとロンドン響は、春に北米と日本を巡る大規模な演奏旅行を成功裏に終え、同響初の音楽監督就任でさらにお互いの関係を深めていった時期に当たり、9月のシーズン開幕公演に続く共演となった11月29日のバービカンホールでの演奏会で、ストラヴィンスキーの《プルチネルラ》と共に、ペルゴレージの《スターバト・マーテル》を取り上げたのでした。アバドは1979/80年にミラノとヴェネツィアでもこの組み合わせで取り上げていますが、一晩の演奏会内での作品の強烈な対比性という点以外に、ストラヴィンスキーの作品にはペルゴレージのオペラやカンタータの音楽が素材として使われていることを鑑みると、アバドらしい理にかなったプログラミングといえましょう。またこれは、アバドがかねてからこのオーケストラと小編成の作品を演奏する機会を持ちたいと考えていたことから実現したもので、オーケストラを8-6-4-3-2の弦楽合奏23名とオルガンのみの通奏低音に絞り込んでいます。
キングスウェイ・ホールが教会のように美しく響く名録音
録音は場所を20世紀後半の最良の録音会場として知られたキングスウェイ・ホールに移して行われました。セッションでは、互いに内声部がよく聴こえるように奏者を半円形に配置し、さらに宗教作品としての奥行きの深さを生みだせるようにエンジニアに指示したと言われています。それにより、このホールの通常の録音よりも響きの透明感が増すことにつながり、スコットランドの名ソプラノ、マーガレット・マーシャル、アバドとオペラで多数共演したルチア・ヴァレンティーニ・テッラーニという二人の独唱者とオーケストラのサウンドも、艶と明晰さはそのままにまるで教会での録音を思わせるイメージ(後光に包まれているような)が醸し出される結果となっています。一つ一つの音を十全に鳴らし切ることのできる遅めのテンポを採り、流麗なレガートとたっぷりとしたカンタービレで伸びやかに演奏された弦楽パートと、イギリスの名鍵盤奏者・編曲者のレスリー・ピアソンが担う饒舌になり過ぎないオルガンが美しく溶け合うサウンドは美の極みといえましょう。アバドは24年後の2007年にモーツァルト管弦楽団とこの曲を再録音しています。
シカゴ響の名奏者レイ・スティルとのモーツァルト
アバドがシカゴ交響楽団に初客演したのは1971年のこと。それ以来1991年まで20年にわたり共演が続き、当時の音楽監督ショルティのもとでの客演指揮者的な待遇にあった時期にあたります。剛直な音楽作りを信条とするショルティでしたが、自分とは全く個性の異なるイタリア人のジュリーニを最初の首席客演指揮者に招くなど、オーケストラの適応能力を高める配慮を怠らず、ロスフィル音楽監督就任により関係が薄くなったジュリーニの後任的存在となったのがアバドで、シカゴ響の完璧無類かつ鉄壁のアンサンブルに柔軟性と明るさを加える役割を果たしました。1953年にフリッツ・ライナーの招きにより入団し、翌年から1993年に引退するまで首席オーボエ奏者を務めた名手レイ・スティル(1920-2014)を独奏に迎え1983年に録音されたモーツァルトのオーボエ協奏曲は、アドルフ・ハーセス、デイル・クレヴェンジャー、ウィラード・エリオットという同響の名物首席奏者による古典派の協奏曲アルバムに含まれていました。フィルアップとするにはもったいないほどの名演で、作曲者自身によるカデンツァが存在しないため、スティルは自作の気の利いたカデンツァを吹いています。シカゴ響の本拠地であるオーケストラ・ホールは残響が少ないものの、各パートの明晰さを追求したショルティとのデッカ録音とは異なり、ホールの響きを採り入れた全体を俯瞰するようなドイツ・グラモフォンらしい音作りがなされ、厚みのあるオーケストラを背景に、存在感のあるオーボエ・ソロが美しく浮かび上がっています。
ドイツ・グラモフォン・デジタル初期の名録音
2曲ともデジタル初期の名盤ですが、Super Audio CDハイブリッド化は今回が初めて。これまで同様、使用するマスターの選定から、最終的なDSDマスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業をおこないました。特にDSDマスタリングにあたっては、「Esoteric Mastering」を使用。 入念に調整されたESOTERICの最高級機材Master Sound Discrete DACとMaster Sound Discrete Clockを投入。またMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、オリジナル・マスターの持つ情報を伸びやかなサウンドでディスク化することができました。
『全体の精妙この上ないバランス・・・まるでラファエッロの絵画を眺めているような気にさせられる』
「アバドは簡素な音構成の中の哀悼というよりも、シンフォニックな弦の響きの中にペルゴレージの現代的変容を見出そうとしているようで、名演として知られるグラチス盤のナポリのオーケストラのような透明な軽さはない。多分にペルゴレージの音楽に潜在する憂愁を、ロマン派的心情で描き出してくる。マーシャルの繊細な歌い方に対して、V=テッラーニはスケールの大きな歌い方だが、意外とバランスは取れている。」
『レコード芸術』1985年5月号・特選盤 1985年度レコードアカデミー賞受賞
「この曲には名演や意欲的演奏が多く、今までに発売されたほとんどのレコードが持っていて損のないものだ。アバド盤はソリスト二人の感動的な歌唱が断然光る。アバドの指揮もヤーコプス盤とは対照的なくらい表情が豊かだ。」
『クラシック・レコードブック VOL.5 オペラ・声楽曲編』1985年
「善人は若死にする、と言うが、ペルゴレージのこの曲には、ふてぶてしいまでの強靭な生命力とは無縁の、死を予感し、それを迎える用意ができた夭折の芸術家特有の諦念が聴き取れる。また悲哀を帯びた美のはかなさも感じ取れる。それが人間の短いかけがえのない命の尊さを印象付け、聖母への祈りを真摯なものにしている。アバドはその美のはかなさを流麗かつ繊細さを極めたレガートで引き出し、かつ命の尊さを掌のなかで慎重に慈しみ深くはかっている。全体のバランスは精妙この上なく、まるでラファエッロの絵画を眺めているような気にさせられる。マーシャルの独唱はやや硬質ながら美しく敬虔で、全体の調和美の中に収まっている。」
『クラシック名盤大全・オペラ声楽曲編』1998年
「この演奏には深い思い入れがあって、繰り返し聴いてきた。実際のステージでも聴いたアバドの演奏は真摯で、この名曲の精神に寄り添った素晴らしいものだ。最近はやりの古楽器とは違うけれど、ロンドン交響楽団の弦楽アンサンブルを使ったこの演奏の美しい響きには深い精神性がにじんでいる。2人の独唱、とりわけヴァレンティーニ=テッラーニの全身全霊を込めた歌唱は感動的だ。実は彼女が白血病で亡くなったときにもこのディスクを聴いて冥福を祈った。オペラ的な響き、オペラ的な発声という向きもあるかもしれないが、これはオペラの国イタリアに育ったペルゴレージの子孫たちが、自分たちの能力を虚心に作品に捧げた究極の名演奏であると思う。」
『クラシック不滅の名盤1000』2007年
[収録曲]
◇ジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージ(1710-1736)
スターバト・マーテル(ソプラノ、アルト、弦楽と通奏低音のための) |
[1] |
第1曲:二重唱「悲しみに沈める聖母は涙にむせびて」 |
[2] |
第2曲:アリア(ソプラノ)「嘆き憂い悲しめるその御魂は」 |
[3] |
第3曲:二重唱「天主の御独り子の」 |
[4] |
第4曲:アリア(アルト)「尊き御子の苦しみを見給える」 |
[5] |
第5曲:二重唱「キリストの御母の」 |
[6] |
第6曲:アリア(ソプラノ)「聖母はまた最愛の御子が」 |
[7] |
第7曲:アリア(アルト)「慈しみの泉なる御母よ」 |
[8] |
第8曲:二重唱「わが心をして」 |
[9] |
第9曲:二重唱「ああ聖母よ」 |
[10] |
第10曲:アリア(アルト)「われにキリストの死を負わしめ」 |
[11] |
第11曲:二重唱「聖なる童貞女よ」 |
[12] |
第12曲:二重唱「肉身は死して朽つるとも」 |
奏者 |
マーガレット・マーシャル(ソプラノ)
ルチア・ヴァレンティーニ・テッラーニ(アルト)
レスリー・ピアソン(オルガン)
指揮: クラウディオ・アバド
ロンドン交響楽団員
[第1ヴァイオリン] マイケル・デイヴィス、アシュレイ・アールブックル、レノックス・マッケンジー、ナイジェル・ブロードベント、マイケル・ハムフリー、ロバート・クラーク、ロバート・レテリック、シリル・ルーベン
[第2ヴァイオリン] ワーウィック・ヒル、ニール・ワトソン、イアン・マクドノー、サミュエル・アーティス、ウイリアム・ブラウン、スタンリー・キャッスル
[ヴィオラ] アレクサンダー・テイラー、ブライアン・クラーク、パトリック・フーリー、ピーター・ノリス
[チェロ] ロド・マグラーフ、レイ・アダムス、ジェニファー・ブラウン
[コントラバス] ブルース・モリスン、ポール・マリオン |
◇ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)
オーボエ協奏曲 ハ長調 K.314(285d) |
[13] |
第1楽章:Allegro aperto |
[14] |
第2楽章:Adagio ma non troppo |
[15] |
第3楽章:Rondeau(Allegro) |
奏者 |
レイ・スティル(オーボエ)
シカゴ交響楽団
指揮: クラウディオ・アバド |
[詳細]
録音 |
[1-12]1983年11月30日、12月1日、ロンドン、キングスウェイ・ホール
[13-15]1983年3月1日〜5日、シカゴ、オーケストラ・ホール |
初出 |
[1-13]Deutsche Grammophon 415 103-2(1985年3月)
[13-15]Deutsche Grammophon 415 104-2(1985年9月) |
日本盤初出 |
[1-13]Deutsche Grammophon F35G50031(1985年4月1日)
[13-15]Deutsche Grammophon F35G50185(1985年9月25日) |
オリジナル・レコーディング |
[プロデューサー、レコーディング・スーパーヴィジョン]ライナー・ブロック
[バランス・エンジニア]
[1-13]クラウス・ヒーマン
[13-15]カール=アウグスト・ネーグラー
[エディティング]
[1-13]ラインヒルト・シュミット
[13-15]クリストファー・オールダー |
※製品の仕様、外観などは予告なく変更されることがありますので、予めご了承ください。